溶媒ノモグラフ
HPLCの方法開発の際に、選択性を変化させるために使用可能で、最も効果が大きいパラメーターは、溶媒種類の変更です。例えば、グラジエント溶離の際のB溶媒を、アセトニトリル(ACN)から、メタノール(MeOH)やテトラヒドロフラン(THF)に変えることが可能です。一般的な法則として、この様な溶媒の変更は、ピーク同士の間隔、あるいは選択性を変化させます。この溶媒の変更により、分離が改善されることを期待しますが、改善される保障はありません。
私たちの多くは、逆相分離の移動相に加える有機成分として、MeOHとACNの使用には馴染みがありますが、THFはあまり馴染みが無いでしょう。これら溶媒は、選択性の違いの他にも、溶出強度も違います。つまり、もし、上記の3つの有機溶媒を用いて、同じ水-有機溶媒比(例えば50/50)の移動相を調製した場合、全体的に保持が異なってくるであろうと予想できます。ACNとMeOHのこれまでの使用経験から、私たちの多くは、ACN移動相の方が、同じ組成比のMeOH移動相よりも、保持が短くなると予想するでしょう。このことは、有機成分の変更に加えて、希望する保持時間を得るために、移動相中のB溶媒の割合を調整する必要があることを意味しています。
新しい溶媒で、以前の溶媒と同じ有機溶媒組成の移動相を調製して、さらにその割合を調節するよりも、最初から前回と近い保持を得る方法として、図1に示す溶媒強度ノモグラフと呼ばれる図を用いることができます。これの使用法はとても簡単です。現在使用している溶媒を選んで、それと(おおよそ)同じ溶媒強度の他の溶媒を選ぶだけです。
例えば、30%ACNと40%MeOHと25%THFは、おおよそ同じ溶媒強度です。もちろん、この図が厳密に正確であることを期待してはいけません。この図は三つの溶媒を使用した際の、それぞれ数百種の化合物の保持データを基にしており、自動車メーカーがいつも言っている様に、"燃費は運転法や環境により異なります"と同様です。しかし、一般的に、憶測で決めるよりは良いと思います。
一例として図2を見て下さい。一番上のクロマトグラムは60%ACNでの分離です。最後の二つのピークの分離は不十分であり、保持を上昇させることにより分離の改善を行う一般的なパターン通り、図2の中段に示す様に移動相を50%ACNに変えました。この時、最後の二つのピークの分離は改善されましたが、ベースライン分離には40%あるいはそれ以下のACN含有率が必要です。また、この60%から50%へ変更した時の保持の変化から推測すれば、40%以下に変更することにより、測定時間は30分以上になってしまい、それはこの分析法では望ましくありません。よって、MeOHへの変更が論理的な方法でしょう。図1より、50%ACNは60%MeOHと、おおよそ同じ溶媒強度です。この条件で検討を行い、さらに調整を行って65%MeOHで得られたクロマトグラムを図2の下段に示します。保持が50%ACNと60%ACNの間であることがお分かりいただけるでしょう。これは図1の結果と一致しています。もし分離が依然として不十分であれば、次は40%TFAへの変更を行ってみて下さい。
移動相中の有機溶媒を他の有機溶媒に変更することは、クロマトグラム上のピークを動かすのにとても有効な方法です。図1の溶媒強度ノモグラフを使って、最初の段階で、前回とおおよそ同じ保持時間となる移動相を見つけることが、手軽な方法です。