セパレーション・サイエンスへようこそ

S/N(信号/ノイズ比)の重要性

/N比(信号/ノイズ比)は,あなたの測定方法の質に影響を及ぼす重要な可変要素です。

 

図1で示しているように,S/Nの測定はかなり単純なものです。まず,ベースラインノイズが容易に認識できるように,クロマトグラムを十分に拡大します(ピークの頂点は全部が見えなくても構いません)。次に,ほぼ平行の2本の直線(1本はノイズの上部に,もう1本は下部に)でベースラインを挟んでノイズを決定します。光吸収量単位(AU)に見らるような適切なユニットに変換された2本の直線の間の縦の距離がベースラインノイズです。検出器仕様のS/N比と比較することで,このベースラインノイズがリーズナブルかどうかが判定できます。

 

ベースラインノイズが検出器仕様のおおよそ5倍以内になるなら,まあまあ良いと言えるでしょう。結局,検出器仕様は,管理された環境の下で一般には乾電池を使ってのものであるため,研究室でメーカーの仕様を得るというのは,少々期待過大なのかもしれません。シグナルは,ノイズバンドの中間から頂点が計測されます。S/N比は,単にシグナルをノイズ(同じユニット)で割ったものです。

 

              ET = (E12 + E22 + E12 + … + En2)0.5      (1)

 

では,S/N比は,測定方法の質全体にどのような影響を及ぼすのでしょうか。測定方法に含まれる総エラーは,単純に,寄与するそれぞれのエラーの二乗の合計の平方根になります。

 

              ES/N » 50 / (S/N)                              (2)

 

ここでは,ETは総エラーを,E1~Enは,その総エラーに寄与するエラー数を表わします。これらは,例えば,サンプリング,試料の準備,注入,クロマトグラフィーのエラー,検出器のエラー,そしてS/N比エラーなどから成るものです。S/N比エラー(ES/N)は,次のように概算されます。

 

S/N(信号/ノイズ比)の重要性

この式の元となるのは,以下のものです。Nはノイズ。これはベースラインの幅で,ガウス分布と考えられるので,σ ≈ N/4です。信号ピークの高さのエラーの測定は,測定以前のベースライン,測定後のベースライン,それに信号ピークの先端という三つの測定の結果です。これは,不確かさ(1 σ)が,≈ 30.5 σ  = 1.73σ ≈ N/2であることを意味します。したがって,Sを測定するときの不確かさは,(N/2)/S あるいは 0.5/(S/N)になります。これを%RSDに変換すると, = (100)(0.5)/(S/N) = 50/(S/N)になります。

 

ET = (E12 + (E1/2)2)0.5 = (E12 + E12/4)0.5

     = (5/4 E12)0.5 = (1.25 E12)0.5 = 1.250.5 E1

     = 1.12 E1

 

総エラーを最小限にするには,もちろん,一番大きな個別エラーをまず減少させて,それから次へ,次へと,総エラーが許容範囲内になるようにしなければなりません。一般的には,一つのエラーが,許容総エラーの値の半分以下であるなら,それが総エラーに与える影響は<15%です。これは簡単な派生的なことに基づいています。すなわち,最も単純なケースを想定した場合,エラーの要因は一つなので,ET = E1です。最悪の場合は,エラーの要因は二つ,E1 と E2になります。E2 = E1/2とすると,

 

ET = (E12 + (E1/2)2)0.5 = (E12 + E12/4)0.5

     = (5/4 E12)0.5 = (1.25 E12)0.5 = 1.250.5 E1

     = 1.12 E1

 

が得られます。したがって,ET = 1.12 E1 ≈ 1.15 E1となります。これは,総エラーの半分であるエラーの要因は,総エラーを<15%増加させるということなのです。

 

              S/N = 50 / 0.5 = 100

 

それではこれを,S/N比と測定方法全体のエラーに適用してみましょう。医薬品の構成の測定を行っているとすれば,±2%以上の不正確があってはならないというのが,その一般的な要求仕様となります。普通このような場合にはエラーのマージンを多少は容認して,これを検証するときにはこの測定方法が±1%で機能することを求めています。S/N比が,これに対してわずかな寄与しかしないものであるなら,ES/N ≤ 0.5%となります。S/N比の式2を解くと,

 

              S/N = 50 / 0.5 = 100

 

が得られます。

したがって,測定方法全体のエラーに対して,S/N比が副次的な寄与しかしないことを確実にするためには,S/N比を少なくとも100にする必要があるのです。

 

              S/N = 50 / 5 = 10

 

LC-MS/MS(例えば血漿中の薬物)による生物学的分析法など,トレース分析については,定量分析の下限値(LLOQ)における許容可変性は,±20%です。この測定法をその半分のエラー,あるいは±10%で有効化したいとすれば,S/N比は»±5%以下にしなければなりません。再度,式2を整理し直すと,

 

              S/N = 50 / 5 = 10

 

となります。

これが,いくつかの研究室において,生物学的分析法のLLOQは,S/N = 10を提供するカラムの容量によって決定される,という要求の源となるものです。

 

今回の議論から,S/N比が,とくにトレース分析において重要なものであるということが容易にわかります。Sを増加させる,Nを減少させる,あるいはその両方を行えば,S/N比を向上させることができるのです。

 

 

エキスパートのための、無料学習!

無料のウェビナー、オンライントレーニング、トラブルシューティング、アプリケーション、テクニカル情報、そしてブログを受け取り、更に学びませんか。下記にEmailアドレスを記入し、サインアップしてください。

今すぐ無料で登録  

 

セパレーション・サイエンスへようこそ

セパレーション・サイエンスは、クロマトグラフィー及び質量分析技術に携わる皆様のための基礎、実践そしてトラブルシューティングに関する情報をお届けする、業界最前線のポータルサイトです。さまざまな記事・アプリケーションを特集し、併せてウェビナー、ワークショップ、そしてカンファレンスを開催することで、"すぐに使える"情報を発信しています。

ブログ更新に登録