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血漿中ステロイドホルモンのLC/MS/MS分析に適合する試料前処理法の開発と最適化

HybridSPE®-Phospholipidプレートを使用して血漿試料中のステロイドホルモンの分析例をご紹介いたします。一般的に、これらの化合物の試料前処理は困難とされていますが、HybridSPE®-Phospholipidプレートによる試料前処理の後に、Ascentis® Express Fused-Core® C18カラムを用いたLC/MS/MSによって分析することにより、優れた回収率が得られました。試料に含まれる内因性のリン脂質は定量に影響し、試料処理能力を低減させるだけでなく、カラム寿命を縮める恐れがありますが、HybridSPE®-Phospholipidプレートを用いた抽出物中には含まれていませんでした。

はじめに
最近、一部の臨床分析法が、イムノアッセイからLC/MS/MS法へと切り替えられる傾向が見られます。これには、様々な理由がありますが、LC/MS/MS法は分析の特異性を向上されるだけでなく、入手できる抗体の種類による制限を受けないほか、多成分溶質の同時分析も可能です。しかし、LC/MS/MSにも欠点があります。その中でも最も注意しなければならないのは、内因性試料マトリクスによる妨害により、分析対象物質の応答の再現性が無いように見える可能性があることです[1]。

本研究の目的
本研究は以下の2つの目的で行いました。まず、血漿中に存在するステロイドホルモンに対する、簡便なLC/MS/MS分析法の開発です。今回開発した分析法では、ステロイドホルモンであるprogesterone、aldosterone、corticosterone、deoxycorticosterone、testosterone、および17α-methyltestosteroneを血漿試料から直接分析するために、HybridSPE-Phospholipidプレートによる試料前処理を行いしました。もうひとつの目的は、今回開発した分析法における試料マトリクス由来のバックグラウンドレベルを、一般的なタンパク質除去法と比較することです。

実験
クロマトグラフィー(LC/MS/MS)条件
実験に使用したステロイドホルモンの化学構造を図1に示します。まず、ステロイドホルモン混合試料ならびにAscentis Express C18カラムを使用し、クロマトグラフィー分離条件を検討しました。試料前処理した血漿試料について、マトリクスの影響をモニタリングできるように、溶媒グラジエント時間を長めに設定しました。

血漿中ステロイドホルモンのLC/MS/MS分析に適合する試料前処理法の開発と最適化-1

 

HybridSPE-Phospholipidの原理 

HybridSPE-Phospholipidは、生体試料中からタンパクとリン脂質を同時に取り除くために開発された技術です。簡便な標準法である除タンパク法と、特異性を有する固相抽出法を一体化しています。ジルコニア-シリカハイブリッド粒子によるリン脂質の分離だけでなく、デプスフィルターとして機能するPTFEフリットが、沈殿した粒子状のタンパク質の効果的な除去を行います。ハイブリッド粒子のジルコニア部分は、ルイス酸(電子受容体)として働き、リン脂質の一部であるリン酸基のようなルイス塩基(電子供与体)と強く相互作用します。本法では、各種分析対象物質を除去することなく、マトリクス中のリン脂質を選択的に除去することが可能です[2]。

試料前処理法: 試料回収率に影響するファクター
HybridSPE-Phospholipid 96ウェルプレートからの標準化合物の回収率に基づいて試料前処理条件を検討し、得られた条件をスパイクした血漿試料の分析に用いました。この際、数種の除タンパク溶媒について検討しました。血漿試料に対する良い回収率を確認した後、開発した方法と、一般的にリン脂質マトリクス除去で使われる除タンパク法とを比較しました。

HybridSPE-Phospholipidを用いた標準試料溶液からの回収率
最初に、標準溶液からの6種のステロイド化合物の回収率を検討することにより、HybridSPE-Phospholipid 96ウェルプレートを使用する分析法の開発を行いました。ギ酸1%(v/v)を含むアセトニトリル:水(3:1)混合溶媒に溶解した各化合物の濃度10 ng/mLから300 ng/mLの範囲の溶液について、検量線を作成しました。濃度50 ng/mLの標準溶液300 μLをHybridSPE-Phospholipid 96ウェルプレートに入れ10インチHg(34kPa)で4分間、吸引した後、その試料を分析しました。

HybridSPE-Phospholipidを用いた血漿試料からの回収率
HybridSPE-Phospholipidを用いて血漿試料の除タンパクを行う際の溶媒として、ギ酸1%(v/v)のアセトニトリル溶液を最初に検討し、このとき、溶媒に対する血漿試料の比率は3:1で使用し、血漿試料中のタンパク質を効率的に除去することが可能でした。また、ギ酸は測定対象化合物がタンパク質と結合することを防ぐため、感度の向上に寄与します。一方で、分析対象化合物がキレートを形成する化合物である場合は、クエン酸0.5%(w/v)のアセトニトリル溶液を除タンパク段階およびコンディショニングにおいて使用することにより、ジルコニア-シリカ粒子からの回収率が大きく向上します。

測定対象化合物を含む標準溶液(50 ng/mL)を、K2EDTAで安定化させたラット血漿(Lampire Biological Laboratories, Pipersville, PA)にスパイクしました。その溶液100 μLをHybridSPE-Phospholipidプレートに滴下し、300 μLのギ酸(1%)アセトニトリル溶液を除タンパク溶媒として加えました。次にプレートをvortexで4分間混合し、吸引マニホールドに接続して10インチHg(34kPa)で4分間、吸引しました。得られたろ液を、そのまま分析しました。最終溶液中のステロイドホルモンの濃度は、最初の濃度と同一濃度である50 ng/mLでした。回収率は、バッファ-で調製した分析対象化合物の検量線を使用し、内挿法により算出しました。

クエン酸を使用する際も、上記のギ酸を使用する場合と同様に行いましたが、次の2点が異なります。除タンパク溶媒はクエン酸(0.5%)のアセトニトリル溶液を使用しています。また、HybridSPE-Phospholipidプレートは、各ウェルをクエン酸(0.5%)のアセトニトリル溶液300 μLでコンディショニングしました。

血漿試料中のリン脂質の測定
 スパイク血漿試料は、クエン酸(0.5%)のアセトニトリル溶液を用いて除タンパクした後、そのまま分析しました。リン脂質の測定には、Q3(二段目のMS)フルスキャンモードを使用し、プレカーサーイオンスキャンにはm/z 104を使用しました。LCの溶媒グラジエントの際には、リン脂質の溶出が可能な、有機溶媒の濃度が高いグラジエント条件を使用しました。

結果と考察
図2に、Ascentis Express C18カラムを使用したLC/MS/MS法による、6種のステロイドホルモンのグラジエント溶出結果を示します。

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 分析対象物の回収率

表1に、ギ酸を使用した条件で標準試料からHybridSPE-Phospholipidプレートに抽出されたステロイド化合物の回収率データを示します。表1には、ギ酸を用いた場合とクエン酸を用いた場合のスパイク血漿試料の回収率を比較した結果も示しています。表内には、得られた濃度の平均値、繰り返し測定時(n=8)の標準偏差と変動係数(% C.V.)を記載しています。

 

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ギ酸を使用した条件では、標準試料の測定においてaldosterone、corticosteroneおよびdeoxycorticosteroneに対して、回収率は低く、変動係数は大きな値を示しました。これは、HybridSPE-Phospholipidのジルコニア-シリカ粒子の表面とこれらの化合物のカルボニル基がキレート化したためです。図1でaldosteroneとprogesteroneの構造を比較してみて下さい。aldosteroneのカルボニル基とヒドロキシル基の位置が、キレート化を起こすのに適した位置にあることがわかります。このことから、HybridSPE-Phospholipidからの試料の回収率は、標準試料よりも血清や血漿からの方が高くなることが予想されます。なぜなら、血漿試料には多くのリン脂質が含まれており、それがルイス酸であるHybridSPE-Phospholipidのジルコニアと強く相互作用し、活性部位をマスクするためです。この仮定を支持する結果を表1Bに示します。corticosteroneとdeoxycorticosteroneを血漿から抽出する際の回収率と変動係数は、標準水溶液よりも大幅に改善しています。

一方で、ギ酸を用いた条件では、aldosteroneの血漿からの回収率は依然として低いままです。

ギ酸からクエン酸に変更することにより、キレート化を防ぐことができます。クエン酸はキレート試薬として働き、HybridSPE-Phospholipidの添加剤として加えると、ジルコニア表面と結び付きます。プレートをクエン酸で前処理すると、キレート化する化合物の保持を防ぐ一方で、リン脂質の選択的な保持を阻害することはありません。表1Cは、前処理段階と除タンパクの添加剤としてクエン酸を使用した際の結果です。HybridSPE-Phospholipidからのキレート化化合物の回収率と再現性が飛躍的に向上しています。

共抽出化合物の検討
図3に、HybridSPE-Phospholipid法と一般的な除タンパク質法を使用して、試料マトリクスを測定したクロマトグラムを比較します。HybridSPE-Phospholipidを使用した血漿試料は、一般的な除タンパク法と比較して、ほとんど夾雑物が検出されていません。また、一般的な除タンパク法では、リン脂質マトリクス中の夾雑物と測定対象化合物が共溶出することはありませんが、MSのイオン源を汚す可能性があります。更に、リン脂質マトリクス中の夾雑物は、次に測定する試料へのキャリーオーバーの原因となり、不規則な干渉を起こしたり、カラムの寿命を短くする可能性があります。

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まとめ
クエン酸0.5%を含むアセトニトリル溶液とHybridSPE-Phospholipid使用することにより、血漿試料からリン脂質を効率的に除去し、かつ、ステロイド化合物を優れた回収率と再現性で抽出することが可能でした。本研究では、分析が特に困難な分析対象化合物に対して、シンプルで効率の良い解決法が存在することを紹介いたしました。本研究では、ギ酸を使用する条件でキレート化するステロイド化合物の回収率が低かったものの、クエン酸を使用することにより、キレート化の影響を除き、回収率を向上させることができました。この分析法では、検討した全てのステロイド化合物の試料前処理において、標準溶液およびスパイク血漿試料のどちらからも、高い回収率と低い変動係数が得られました。また、クエン酸の使用は、マトリクスからの内因性リン脂質の除去に対しても非常に効果的でした。結論として、HybridSPE-Phospholipidは汎用な手法をわずかに変更するだけで、一般的に高い回収率を得ることが困難なキレート化化合物に対してもマトリクスによる影響を減少させ、効率的に抽出できることがわかりました。つまりHybridSPE-Phospholipidは、生体試料のLC/MS分析において、マトリクスによる影響を減少させるシンプルで効果的なLC/MS試料前処理法のひとつです。

 

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文献
[1] Aurand, C. Understanding, Visualizing, and Reducing the Impact of Phospholipid-Induced Ion Suppression in LC-MS; Supelco Reporter 30.2: 10-12. http://www.sigmaaldrich.com/content/dam/sigma-aldrich/docs/Supelco/The_Reporter/1/T212002.pdf

[2] HybridSPE-Phospholipid Technology Home Page. sigma-aldrich.com/hybridspe-pl (accessed February 11, 2014).

 

    

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