なぜ HPLC 法において、最初の数回の試料注入は保持時間がずれるのでしょうか?
皆さんは、この現象をどれくらい経験されてきたでしょうか?HPLCのカラムに移動相を30分間流して、十分に平衡化させたと思っても、最初の3、4回の試料注入では保持時間が少しずれて、最終的には更に2-3回程度試料注を入行った後で保持時間が落ち着く現象です。場合によっては、この問題は新しいカラムのみで起こりますが、他の分析法を開始する度に、同様の現象が見られることもあります。
私は、この問題を頻繁に発生する問題に分類したくはありませんが、その一方で、あまり頻繁に起きない問題に分類できないくらいの頻度で発生してしまいます。他のHPLC法よりも、この問題が起こりやすい場合がいくつかあります。この問題は、カラムの平衡化と関係しており、最初の試料注入の前の平衡化時間を延ばしても、問題の解決にはつながらないと思われます。我々は、試料分子は無極性の固定相と、より極性の大きい移動相の間で分配し、極性の小さい物質は、より長い保持時間を有するだけであるという様に、逆相HPLCをとても単純なプロセスだと考えがちです。残念ながら、実際、逆相HPLCはそれほど単純ではありません。逆相モードでは、殆どの場合、疎水性相互作用が保持を支配しているものの、多くの場合、一つ以上の保持機構が存在します。仮に、ある試料分子が二つの異なるメカニズムで保持されている場合、正味の保持時間は、それら二種の活性部位の相対数に依存するでしょう。このことは、古くて、かつ、純度の低い、タイプAシリカカラムには一般的なことでした。このタイプのシリカには、強酸性のシラノール基が存在し、イオン化した塩基に対して、カチオン交換部位として働いていました。これらの強い相互作用が、ピークテーリングの主な要因でした。新しくて、高純度の、タイプBカラムでは、これら酸性シラノール基の数は劇的に減少しており、それに伴ってピークテーリングも減少しています。一般的に、上記のシラノール活性の問題を解決するために行っている方法の一つは、トリエチルアミン(TEA)などの低分子量の塩基を移動相に加える方法です。TEAは酸性シラノールと強力に相互作用し、活性部位を先に覆いますので、試料ピークのテーリングを大幅に減少させることができます。
図1. 最初数回の試料注入時における保持時間のずれのイメージ図。
同じことが、少ない頻度ではあるものの、新しいカラムでも、起こり得ます。最初の試料注入の際、試料分子の一部が強い活性部位(例えばイオン化したシラノール基)に強く相互作用し、一方で、他の試料分子は疎水性相互作用により保持されます。以後の試料注入が行われるにつれて、その活性部位は徐々にブロックされていくため、この保持機構は重要では無くなっていきます。この疎水性相互作用による保持とシラノールによる保持との比率が変わると、保持時間も変わるでしょう。なぜなら、殆どの新しいタイプのカラムには、極めて少量の活性シラノールのみしか存在しない場合が多く、それらの活性部位は最初の数回の試料注入で飽和し、それにより、保持時間が安定するためです。
どうすればこの問題を回避できるのでしょうか?多くの場合、この問題を除くことは困難であるため、最も良い方法は、平衡化プロセスを加速させるように努めることです。これは次の二つの方法のどちらかの方法で、簡単に行うことができます。一つ目は、連続して何度か試料を注入する方法です。この際、最初の試料がカラムから溶出するのを待たずに、次の試料を注入します。この方法は、カラム内にある程度の試料を蓄積させるため、平衡化を短くします。もう一つの方法は、高濃度の試料を一回か二回注入し、先と同様の効果を得る方法です。これが、私がいつもHPLCシステム起動時の最初の試料注入を無視することを勧める理由の一つです。カラムへの上記のような意図を持った試料注入が必要で無かったとしても、最初の試料注入による試料が、二回目以降の試料注入による試料と全く同様にカラムと相互作用することは、あまり無いからです。
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