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基本に戻りましょう第3回: tR-t0診断

基本に戻りましょう第 3 回 : tR -t0 診断

過去2回にわたって、保持係数およびカラムデッドタイムt0 の求め方について紹介しました。今回は、これまでに計算に用いてきた数字のうちのいくつかを用いた、HPLC分離における問題の診断法について解説します。仮に、クロマトグラムの変化が観察され、保持時間tR およびt0 に何が起こっているのかについて注目している時、次の四つの組み合わせしか可能性はありません:t0 とtR の両方が同時に変化している、tR のみが変化している、t0 のみが変化している(これは非常に稀です)、およびどちらも変化していない(変化が無いので問題ありません)。つまり、最初の2例のみが重要であり、これらを図1中の表に示しています。

まず、仮に、保持時間とデッドタイムの両方が同時に変化した際に、何が問題であるのかについて考えてみましょう。これは、流速に関する変化か、カラムサイズの変化のどちらかです。最後にカラムサイズをチェックしてから、自然にカラムサイズが変わることは有りません。例えば、150x4.6mm内径のカラムをHPLCシステムにつないで一晩測定を行っていたら、何もしなければ翌朝カラムは123x4.3mmに縮んでいた、という様なことはありません。つまり、カラムサイズの変化は人的ミスであり、一目瞭然でしょう。まだ、流速の変化が残されています。流速の増加も多くの場合、人的ミスですが、場合によっては流速の変化は、コントローラーの不調が原因で発生することがあるでしょう。通常よりも低い流速になる最も可能性の高い原因は、漏れ、チェックバルブの不良、ポンプヘッド内の泡、あるいは、ポンプシールの不良によるものです。

もし、保持時間だけが変化するのであれば、図1からわかる様に、問題の原因はおそらく移動相、カラム充填剤あるいはカラム温度にあると思われます。これらは、最も多く起こり得る問題の原因であるので、皆さんはこの診断表はあまり役に立たないと思われるかもしれません。しかし、これらの故障パターンはそれぞれ特徴的であり、それ故、問題の原因を取り除くことができるのです。

一般的に、移動相の問題は、段階的に現れます。例えば、新しいバッチで移動相を調製し、pH調整あるいはメタノールの含有量を少し誤ったために、保持時間が変化する場合です。もちろん、移動相は時間経過によって劣化あるいは揮発し、変化しますが、そのようなケースはあまりありません。また、そのような調製ミスは、新しいバッチの移動相を作成した時に気が付きます。保持の段階的変化を引き起こすからです。 

カラム充填剤の変化は、数百あるいは数千回の試料注入に渡ってゆっくりと起こり、完全に不可逆です。保持時間はカラムの劣化に伴って、徐々に上昇あるいは減少する傾向があります。また、カラムの劣化は多くの場合、システムの圧力上昇を伴います。

温度変化は、日中の変化として現れます。特に、カラムをカラムオーブンに入れていない場合に見られます。温度の上昇に伴って、保持が減少します。おおよそ、1ºCの温度上昇で保持が2%減少します。私は、夏場にエアコンが無い実験室で仕事をしている時に、南向きの窓に日光が照り付け、建物の外壁のレンガが加熱されて、部屋の温度が5-10ºC程度まで上がったことを思い出します。保持時間は、この現象が起こった時減少しますが、夜になって研究室の温度が下がると、再び増加します。室温が良くコントロールされている実験室であったとしても、日中と夜間で異なる温度設定がされているかもしれませんし、このような場合には、保持時間の変化に相関のある温度サイクルを発生させてしまいます。カラムオーブンを使用し、更に、HPLCシステムを通気口から離して設置することにより、温度に起因する問題を最小限に留めることができるでしょう。

今回紹介した様な、保持時間とカラムデッドタイムの変化を用いて、クロマトグラムを簡単に調査する方法は、図1にまとめたクロマトグラフィー挙動の理解とともに、実際に起こり得る問題の原因診断の助けになるでしょう。

図1. カラムデッドタイムt0 と保持時間tR を使用して、問題の原因解明をするための診断表。

 

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