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TBAとESI

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ある読者の方の一人から、次の様な質問をEメールで頂きました。私はLC-MSシステムを使用しており、最近、10mMのトリブチルアミン(TBA)を使用するイオン対クロマトグラフィーを用いる、最近発表された方法を試しました。その後、LC-MSを通常の逆相システムに戻しましたが、現在までの、一週間にわたってm/z:186の妨害ピークにずっと悩まされています。システムを徹底的に洗浄し、ピークチューブを交換しましたが、効果はありませんでした。

私は、この経験をもとに、私がもう一度このイオン対クロマトグラフィーを行い、この問題に関する注意事項を含めた研究論文を発表できないかと考えています。この場合、システムから、上記の汚染物質をどの様に除去するのか、何か良いアドバイスを頂けませんか? 

JWD: あなたが難しい問題であると認識したとおり、MS検出の難しさの一つは、インターフェースが過去に使用した物質によって、強いメモリー効果を受けることです。質問の内容から判断すると、あなたはTBAを使用し、陰イオンモードでESIを備えたMSによる検出を行っていると思います。正に荷電したTBAは、負に荷電した分析対象試料に対してイオン対試薬の様に働きます。陽イオンモードに戻した時、システム内の全ての残存TBAがバックグランドシグナルとして現れます。あなたの場合、m/z:186のシグナルが質量スペクトルに現れたのでしょう。 

残存TBAはシステム内のどこからでも流れて来る可能性があります。ですから、HPLCシステム全体を洗浄するか、一部の部品を取り換える必要があります。私ならば、システムからカラムを取り外して、オートサンプラーから検出器までを直接つないで送液することから始めます(この時、必要に応じて、長さ1m、内径0.125mmのPEEKチューブをオートサンプラーと検出器の間のリストリクターとして使用して下さい)。そして、m/z:186をモニターします。運が良ければ、カラムを取り除いただけで、そのイオンは検出されなくなるでしょう。この場合には、新しいカラムを接続して、測定を再開して下さい。もし、カラムを取り除いても、ピークが検出される場合には、システムからTBAを洗い流す必要があります。

全HPLCシステム(オートサンプラーの洗浄溶媒のラインも含みます)の洗浄には、0.1%ギ酸水溶液をお勧めします。まず、移動相の容器、あるいは溶媒フリット等の、安価で交換が容易な部品を交換します。次に、システムを洗浄して、廃液入れへと送液して下さい(検出器インターフェースへと送液してはいけません)。25から50mLの0.1%ギ酸水溶液を1から2mL/minの流速でシステムに送液して下さい。オートサンプラーの注入ポジションと試料導入ポジションの両方を洗浄することを忘れないで下さい。この時、最大の注入体積で、かつシリンジの洗浄も行いながら10回以上注入操作を行って下さい。私ならば、MSインターフェースの標準的なルーチン洗浄操作も行います。ここでも、0.1%ギ酸水溶液による各種部品の洗浄が、TBAの除去に役立ちます。一度、洗浄が終わり、システムを再びつなぎ直せば(カラムはまだ接続していません)、元の使用できる状態に戻っていることがわかるはずです。この段階でも、依然としてm/z:186のピークが残っていれば、一層の洗浄を行わねばならず、最初の四重極(Q1)およびインターフェースとQ1の間の全ての部品を洗浄する必要があります。

私の良き友人で、MS Solutions を執筆しているFred Klink氏に、更なるアドバイスを求めました。彼は、"一般的なルールとして、私は陽イオンモードで使用しているLC-MSのESIに、いかなるアミン含有化合物も導入したくはありません。アミン含有化合物による見せかけのピークが見られるだけでなく、アミンの存在は、より深刻なイオンサプレッションを目的対象物質に対して引き起こすでしょう"と答えてくれました。この回答を聞いて、私は、ソフトウェア会社で働いていた頃の出来事を思い出しました。私たちは、時々、ソフトウェアがクラシッシュしたのと顧客から抗議の電話を受けていました。顧客から、その時の状況を詳細に聞いてみると、クラッシュはCtrl-Alt-;-&の4つのキーの組み合わせが押された時のみに起こっていました。この組み合わせが押されることは、通常の使用では極端に稀な事です。私達はこれを"DDTバグ (Don't Do That)"と呼んでいました。つまり、Fredの賢明なアドバイスの通り、TBAの使用は、まさにこのDDTに該当します。

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